合格率5%!?運転経験ゼロから一発試験でMT普通免許を取るまでのストーリー

そもそも運転免許の一発試験って何?という方は、こちらの記事をご覧ください。
運転免許一発試験(飛び込み試験)とは?経験者が難易度や費用について紹介

試験コース

一発試験での受験を決意

――これは、車の運転経験ゼロだった私が、一発試験でMT普通免許を取得するまでの物語。

2020年2月。まだコロナウイルスが騒ぎになっていなかった頃。
もう慣れっこになった期末レポート・テストのラッシュを終え、大学2回目の春休みが始まった。
私は京都の大学に通っている。京都市は学生の街ということもあってか、10を超える教習所があり、家や大学に近い教習所で免許を取得する人が多い。
私も当然のように教習所に通うつもりでいた。

春休みとは言え2月なので、外はまだまだ寒い。ストーブの灯油代がもったいないからと言われ、私はリビングで本を読んでいる。今日は土曜日で父親が家にいるせいか、なんだか春休みという感じがしない。
そういえば、大学の近くに下宿している友達が、春休みに免許を取ると言っていた。どうせなら一緒に通った方が楽しいだろう。そう思って父親に話しかける。
「国公立大学に受かったら、免許のお金出してくれるって言ってたよね。友達も今から教習所に通うみたいだし、私もそろそろ免許取りたいんだけど……」
父は急に怒鳴ってきた。
「教習所は金持ちの子が通うところや。試験場で直接受けてこい」
ああ、やっぱり相談するんじゃなかった。

ずいぶん昔だが、父が教習所に通わず免許を取ったことを自慢していたのを思い出す。まだAT限定などというものは存在しなかった時代の話だ。
正直言って、父は頭が古い。あらゆることに対して、昔の経験を引きずって説教する癖がある。
弟が地元の中学に進学する時も、40年前の自分の武勇伝を語ってみせ、あげくの果てにはボクシングの本を買い与えていた。
その時、父はこんなことを言っていた。
「中学行ったらカツアゲなんて当たり前やからな。先生に期待せんと、自分で自分の身は守らなあかん」
そんなことはない。今の地元の中学校は平和だ。受験で選抜されるわけではないが、制服を従順に着こなし、部活に打ち込んでいる生徒が多い。
そういうわけで、「一発試験なら10万円もかからへん」という父の話も最初はまったく信じていなかったし、なんとかして教習所に通うつもりだった。

ただ、教習所にかかる30万円を自分で負担するのは大変だ。私は実家から大学に通っているので、アルバイトはそんなにやっていない。
(どうにかしてお金を支援してもらわないと)
私はそう思い、父親との交渉に臨む。
「免許のお金、出してくれるって約束し…」
「試験場で免許取るなら10万くれてやるわ。オートマ限定なんかで取ったらもったいないから、マニュアルで取れよ」
父はこちらの話をさえぎって言い放った。
なんだそれは。受験前にした、「国公立大に合格したら免許の費用を払ってくれる」という約束と話が違うではないか。それに、今時マニュアル車を持っている人なんて珍しい。よっぽど車が好きだったり仕事で使ったりする人以外はオートマ限定でも問題ないはずだ。
父は続けて言う。
「なんべんも言うてるけどな、一発試験やったら10万円でおつり返ってくるから。余った金はやるわ。わしからのサービスや」
……はあ。

家のお金のことは父が実権を握っているので、母に相談してもだめだろう。
私はあきらめて、MT一発試験といういばらの道を歩むことに決めた。これも人生経験だと自分に言い聞かせて。

仮免許学科試験

一発試験で最初に受けるのは仮免許の学科試験だ。
私が受験した時は予約が不要だったが、今では新型コロナの影響で予約制になっている。

免許一発試験の流れ

学科試験の問題集を買ったのはいいものの、なかなか開く気にはなれない。
(あー、めんどうくさい。教習所に通っていればこんなことにはならなかったのに……)

だらだらしているうちに、気がつくと3月になってしまっていた。春休みも残り1ヶ月だ。
(そろそろ勉強しないと、春休み中に免許を取れなくなっちゃう)
そう思った私は、かすかにホコリのつもった問題集を開いて勉強を始めることにした。

(道路標識って意外と多いなぁ……でもこれくらい、大学受験にくらべたらなんてこともないや)
もし教習所に通っていたら、たったこれだけの内容を何十時間もかけてやっていたのだろう。私だったら講義中に寝ていたかもしれない。そう思うと、一発試験も悪くないような気がしてきた。
3日ほど勉強し、引っかけ問題集でも9割以上の点数を安定して取れるようになった私は、そこそこの自信を持って試験当日を迎えた。

運転免許試験場

(はぁ、やっと着いた……ここが運転免許試験場か)
少しでも費用を抑えたかったので、片道15kmという道のりを自転車を走らせてここまでやってきたのだった。膝ががくがく震えているのを感じる。はたして自分は無事に帰れるのだろうか。

試験場の中に入ると、まだ受付時間が始まっていないのに大行列ができていた。恐るべし、運転免許試験場。私は人の多いところが苦手だ。
(どこに行けばいいんだろう)
そう思ってふらふら歩いていると、試験場の方から声をかけられた。
「受験票を持ってあちらにお並びください」
受験票なんて持っていない――そうか、ここにいるのは、ほぼ全員教習所を卒業した人なんだった。
「あの、仮免許の学科試験って……」
「あちらの①番窓口へどうぞ」
係員の方はガラガラの窓口を指差した後、そそくさと次の応対へ向かっていった。
(ずいぶんあわただしいな……)
私は人の波をすりぬけ窓口へと向かった。

「仮免許の学科試験を受けたいのですが」
窓口の女性に話しかけると、彼女は慣れた手つきで書類を出して言った。
「受験票を作成するので、こちらの書類に記入してください」
言われるがままに個人情報を記入し、持ってきた写真を貼り付ける。窓口で記入した書類を渡すと、住民票の写しも合わせてホチキス留めされ、私の受験票ができあがった。
窓口の女性は入口と反対側の方を指差し言った。
「あちらの列に並んで、視力検査を受けてください」
(うわあ、すごい列)
想像以上の人混みにうんざりしながらも、私は着々と手続きを進めていった。

待合所で試験開始を待ちつつ、ぼんやりと受験票を眺める。
――それにしても、なんで受験番号が1番なんだろう。自分より早く来た人はいっぱいいたのに。
その理由は試験室に入るとわかった。入ってすぐ、一番左前の座席に001のプレートがある。そしてその後ろの数席には人がいない。本免許の受験者は固まって座っているが、仮免許試験を受ける自分の座席だけは明らかに浮いて目立っている。
(仮免許試験はみんな教習所で受けるから、自分以外の受験者はいないんだ。だから受験番号が1番なのか……)
試験官が時計を確認して入口の扉を閉めた。教室全体を見渡し、マイクを手に口を開く。
「問題冊子を配布します。仮免許試験を受験される方は挙手してください」
私は肘を曲げて、遠慮がちに手を挙げた。それでも背後から視線が集まるのを感じる。
(ちょ、公開処刑やめて)
なんとか乗り切って問題冊子を受け取ることができた。でも、おかげで余計に緊張してしまった。やっぱり人が多いと調子がくるってしまう。
試験官が教室に響き渡る声で言った。
「解答を開始してください」
問題をよく読んで、マークシートの解答欄を塗りつぶしていく。
(もし落ちたらどうしよう。まあ、もう一回受ければいいだけだから大丈夫……でも父親に何か言われるんだろうなあ)
そんなことを考えながら試験を解き進めていると、あっという間に50問が終わった。問題は拍子抜けするくらい簡単で、ひっかけ問題のようなものはほとんど無かった。これは受かったんじゃないかと思いつつ、私は試験室を後にした。

試験結果の発表まではずいぶんと待たされた。合否に間違いがあっても困るので、そう急いでもらっても困るけれど。
「午前第一回目の学科試験の結果を発表します」
録音されたアナウンスが流れると、待合所の人々の視線が一気にモニターに集まった。緊張が高まる。
画面が切り替わり、合格者の数字がズラっと並んだ。
――ない。
私の番号が無い。001番だから左上にあるはずなのに。
(え、落ちた……)
そう思った時だった。画面がパッと切り替わり、「仮免」の文字とともに001番が表示された。
(あった!001あった!)
さっきの画面は本免許の合格者一覧だったのだ。一瞬ひやっとしたが、なんとか無事合格できて安心した。私は一発試験での免許取得へ向けて一歩前進したのだ。
それと同時に、もう教習所には戻れないというプレッシャーも感じた。一発試験をあきらめて教習所に通ってしまったら、これまでにかけた時間とお金が無駄になってしまうのだ。

合格者発表の後、すぐ近くの窓口から自分の名前を呼ばれた。
窓口の人から、受験票は合格の証明になるので失くしてはいけないことと、今日は奇数日なので、午後に技能試験を続けて受験できることを伝えられた。
だが、あいにく私は技能試験を受けられない。と言うのも、私はまだ一度もハンドルを握ったことがないのだ。午後に自動車練習場の予約をしていて、それが人生で初めての運転になる。
「技能試験は受けません」
「わかりました。学科試験の合格時に技能試験の説明をする決まりになっているので、あちらの窓口で技能試験官の話を聞いてください」
係員が指す先の窓口には、優しそうな目をしたおじいさんがいた。

技能試験の窓口の前に移動すると、待ってましたとばかりに技能試験官のおじいさんが口を開いた。
「ほな、技能試験の説明をするからね。仮免許の技能試験のスタートは1番か2番ポールで、最初に発着所の周りをぐるりと一周する。これは『ならし運転』で、採点の対象にはならへん。で、一周してきたらスタート。今日は3番コースやけど、ちゃんと覚えて来てくれたか?」
「今日は技能試験受けないので」
「そうかそうか。みっちり、しっかり練習してから受験するのがええで。ほんでな、試験で気をつけてほしいのは、道路交通法に従って、安全かつ円滑な運転をすること。例えば曲がる時は、まず安全確認。死角を目視してから幅寄せ、ほんで端に沿って曲がる。これがちゃんとできひんかったら減点や。安全やからってゆっくり過ぎてもあかんで」
まったく運転したこともないのに説明されても、私には何の話なのかよくわからなかった。
「ポイントはこのくらいやな。減点項目も見とこか」
技能試験官に言われるがまま、待合室の後ろ側に向かうと、大きな板に技能試験の減点基準がびっしりと書かれていた。

減点項目

「減点項目はざっとこんな感じ。エンスト1回目は減点されへんけど、2回してしもうたら1回目のぶんと合わせて減点されるしな。あと、脱輪した時は一回バックでコースに戻ってから進みなおさなあかんで」
「なるほど……ありがとうございます」
少し理解できない部分はあったけれど、厳しい一発試験のイメージとは違って、ずいぶんと優しく丁寧に説明してくれたのが意外だった。
技能試験官のおじいさんはなおも語りかけてくる。
「どうや、試験いけそうか?」
「うーん、ちょっと難しそうですけど頑張ります」
「この前も若い子が来てたけどな、何回落ちても諦めんと頑張ってたわ。君も頑張ってや」
(うわあ、やっぱり厳しそう)
不安な気持ちを抱え、私は試験場を後にした。

自動車練習場での運転練習

自動車練習場は指定された教習所ではないので、ここで免許試験を受けられるわけではない。あくまでも一発試験を受ける人やペーパードライバー向けに運転の指導が行われているだけだ。

京都府の自動車練習場は運転免許試験場のすぐ南側にある。学科試験の後で偶然出くわした知り合いと一緒に昼食をとってから、運転講習を予約していた自動車練習場へと向かった。
敷地の奥に進むと、それらしき建物が見えてきた。看板はかなり古くさく、まるで昭和のまま時が止まっているかのようだ。

自動車練習場

(予約の電話はちゃんとつながったけど、まさかつぶれたりしてないよね……)
少し心配になりつつ、門の中に足を踏み入れる。

建物の中は思ったよりも綺麗だった。白い床が蛍光灯の光を反射していて、きちんと清掃されているのだとわかる。待合室には柔らかそうなソファもあって、だるそうに座っている中年の男性が一瞬こちらを振り返り、すぐに手元のスマホに目線を戻した。

私は受付の女性が電話を切ったタイミングで声をかけた。
「14時からの予約をしていた者です」
「初回の方ですね。練習カードをお作りしますので、お名前や電話番号等をお書きください」
今日はもううんざりするほど書かされた個人情報だ。言われた通りに空欄を埋めていると、後ろから別の人が入ってきた。窓口の前を譲る。
「予約していた鈴木です」
「7,800円になります」
14時から講習を受けるのは3人だ。私、座っているおじさん、それと今来たお兄さん。ここはけっこう繁盛しているのかもしれない。
なんとなくお兄さんの練習カードをのぞき見すると、日付つきのハンコがいっぱい押してあった。
(え、10回以上も来てるんだ。7,800×10=78,000円かあ)
10回も講習を受けてしまったら、受験料なども合わせると10万円を超えてしまう。自分は試験に合格するまでに、何回講習を受けることになるのだろう。
また不安な気持ちになりつつ、講習の開始時刻を待った。

建物の裏に回ると、そこは練習コースになっていて、普通車から大型バスまでがずらっと並んでいた。大きなショベルカーのようなものも端っこに停めてあるけれど、あれは何の免許で運転できるのだろう。
14時になると音楽が流れ、オフィスの中からスーツを着た男性がぞろぞろと出てきた。運転の指導員だろう。だるそうに座っていたおじさんが名前を呼ばれ、続いて私も呼ばれる。白髪混じりの小柄なおじいさんが私の指導員だ。
「今日が初めての方ですね。よろしく」
「よろしくお願いします」
指導員がすぐ近くの白い車を指でさす。
「あの車で練習します。車に乗る前に、車の前後に何もないかチェックしてください。周囲の安全を確認してからドアを開けます」
言われた通りにして車に乗り、助手席に座った。マニュアル車の運転席をじっくり見るのは初めてだった。何やら見慣れない棒やスイッチがたくさんある。
ペダルの種類やエンジンのかけ方など、基本的な操作方法とお手本を見せてもらった後、ついに人生初の運転をすることになった。

運転席に座ると、緊張からか少しめまいがした。
キーを回してエンジンをかけ、言われた通りにアクセルを踏む。すると、ブゥンとけたたましい音を立ててエンジンがうなった。
指導員からアドバイスをもらう。
「少し踏みすぎですね。足首よりも指先を曲げてアクセルを踏むイメージで」
(アクセルって思ったより繊細な操作が必要なんだ)
右足の指先に神経を集中させておそるおそる曲げていくと、ブン…とさっきよりも控えめな音がする。いい感じのところでアクセルをキープできているようだ。
指導員はアクセルの音に負けないよう大きな声で言った。
「そのまま、ゆっくりとクラッチペダルを上げていってください」
右足をできるだけキープしつつ、クラッチペダルを踏んでいた左足を少しずつ上げていく。
――ガタン。
振動とともに、急に車内が静かになった。指導員は残念そうな顔をして言った。
「あー、エンストしましたね。車が発進したら、半クラッチのところで左足を少し止めるように意識してみてください」
私は戸惑った。右足でいい感じにアクセルを踏まないといけないのに、そのうえ左足でも繊細なクラッチ操作をしなければならないのだ。
(発進する前に発狂しそう……)
発進と停止の練習を繰り返し、何度もエンストしながら半クラッチの感覚をつかんでいった。

何十分も繰り返していると、だんだん脚が疲れてきた。今日はただでさえ15kmという長い距離を自転車で来たのだ。そろそろ限界かもしれない。
「次発進したら、ギアを2速に入れてみましょう」
指導員が指を2本立てて見せる。
「わかりました」
アクセルを踏み、クラッチペダルを徐々に上げていく。
――ガタン。
またエンストだ。発進さえもできなかった。
腕時計を見た指導員が私に向かって言った。
「終了時刻になりましたね。駐車は私がやるので、運転を交代してください」

慣れた手つきで車をバックさせる指導員を見ながら、私はぼうぜんとしていた。車の運転は想像以上の難しさだった。まだ発進と停止しかしていないのに、こんなに手間取っていて大丈夫なのだろうか。
(あと何回講習を受けなくちゃいけないんだろう)
受付でのぞき見した、大量のハンコが押してあるお兄さんの練習カードが頭をよぎる。もしかしたら、一発試験に挑戦しようと思ったのは間違いだったのかもしれない。結局何十回も講習を受けて、教習所とほとんど変わらないくらいのお金がかかってしまうんじゃないだろうか。
車は最初に乗った場所に戻ってきて、ゆるやかに停まった。指導員がキーをひねると、今まで耳を包んでいたエンジン音がふっと消えた。
私は不安になって、指導員にたずねてみる。
「あの、何時間くらい練習したら試験を受けられるでしょうか」
指導員は淡々と答える。
「運転が初めてで、しかもMTでしょう。20時間くらいですかね」
「ええ、そんなにかかるんですか……」
講習時間はもう終わったんだ、とでも言うようにせかせかとオフィスへ戻る指導員の背中を、私はただぼうぜんと見ることしかできなかった。

自動車練習場

停めておいた自転車のカギを開けて、練習場を後にする。
(今からでもオートマ限定に変える……?でも父親になんて言われるだろう。お金ももらっちゃったし)
私はずっともやもやした気持ちを抱えたまま家へと向かった。15kmの道のりは果てしなく長く、赤信号で止まったついでに倒れてしまいそうになるくらいだった。

運転講習2日目。
1回目の講習から帰った後はかなり悩んだが、数日経つと謎の自信が湧いてきた。そもそも、最初から運転がうまくできるはずもないのだ。もう一回講習を受けてみて、やっぱりだめそうならオートマに変えよう。そう思った私は、結局マニュアルのままで講習を予約した。
しかも、前回と同じく自転車で練習場へと向かうことにした。地下鉄とバスを乗り継いで通うと、往復の交通費は1000円を超える。少しでもお金を節約しないと、という気持ちが、往復30kmの苦痛を上回ったのだった。

自動車練習場に到着し、待合室で講習の開始時間まで待った。
(そういえば、私を担当する指導員はずっと同じ人なんだろうか)
この前の指導員のおじいさんはちょっと冷たい感じだったので、できれば別の人がいいなと思う。あ、これが俗に言う「教官との相性」というやつなのかな?などと考えているうちに、講習開始時刻のメロディが鳴った。オフィスからスーツ姿のおじいさん達が姿を現す。
「よろしくお願いします」
声をかけてきた指導員は、眼鏡をかけた背の高いおじいさんだった。前とは違う人だ。なんだか優しそうな目をしていたので、私は少し安心した。
今日使う車はあっちですと言われ、練習コースの中央の方へと案内される。おじいさんは私より結構背が高いので、少し目線を上げて話を聞いた。
「前回はどこまで練習しましたか?」
「えっと……発進だけです。クラッチの操作が難しくって」
「ふむ。じゃあ、乗りましょうか」
運転席に座ると、また少しめまいがした。
(何をすればいいんだっけ)
家で動画を観て復習した手順を思い出す。座席の位置を調節して、ミラーの角度を合わせる。そしてエンジンのキーを回す。
「シートベルト」
助手席に座っている指導員がシュッシュッとシートベルトを引っ張りながら、こちらに笑いかけてきた。そうだった、シートベルトを忘れていた。
ベルトのプレートを、腰の横のバックルにカチっとはめる。
指導員が右の方を指しながら言った。
「じゃあ、発進して右側のコースに入りましょうか」
フロントガラス越しに、原付の講習を受けている高校生の列が見える。私がアクセルを踏むとけたたましい音が鳴り、数人がこっちを振り向いた。
(あ、踏み過ぎちゃった)
気を取り直してもう一度、今度はゆっくりと右足に力を入れていく。エンジンの回転数が上がったところで、少しずつクラッチペダルを上げる。
――グン、と急に車が動き出した。
(やばい)
あわててブレーキを踏むと、ガタンという衝撃とともに車が止まった。自分の心臓がバクバクと音を立てているのがわかる。原付講習の高校生たちが、私の運転を見て笑っているような気がした。
(こっち見ないで……)
指導員は落ち着いた声で言った。
「もう一回やってみましょう」
私はうなずき、エンジンをかけなおした。前を別の講習車が通ったのを見てから、アクセルをそっと踏む。
クラッチペダルをじわじわと上げていくと、今度はゆっくりと車が動き出した。
(やった。ちゃんと走れてる)

練習コース

その後は順調に練習が進み、ウインカーを使いつつ、ギアも3速まで変えられるようになった。
今日の指導員は放任主義なのか、私がミスをしても特に注意されることはなかった。私がアドバイスを求めた時だけ、ゆっくりと丁寧に説明してくれるのだった。
おかげで私は安心して運転することができたし、操作もずいぶんと上達したように感じた。
講習の最後になって、彼が「駐車も自分でやりましょう」と言ってきたのには驚いた。
私はどうハンドルを切っていいのかわからず、場所も角度もはちゃめちゃな状態で車を停めてしまった。車体感覚も身についていないのだから、当然のことだ。
それでも彼は、「まあいいでしょう」と微笑むとオフィスに戻って行ったのだった。とにかく経験を重視する人なのだろう。私も数をこなしてうまくなりたかったから、良い指導員に出会えたと思った。

それからは週に2回のペースで練習場に通った。
私の運転は回を重ねるごとにうまくなっていき、ギアの変速もスムーズにできるようになった。S字・クランク・坂道発進などの難所も、最初は手こずったものの、何回も挑戦することで身についた。

S字

4月中旬。試験前最後の練習を終えた頃には、すでに鴨川の桜も散っていた。

仮免許技能試験

運転免許試験場

一発試験の仮免許技能試験は合格率がとても低いと言われていて、これこそが一発試験の本体と言っても差し支えない。

 

~おわび~
筆者が慣れない書き方に疲れてしまったので、いったんここまでとなります。もし、ここまで読んでくださった方がいらっしゃったらごめんなさい。

おわび
準備が整いしだい続編をアップいたします。

 

おまけ

講習のたびに、こんな感じのメモをとっていました。今見返すと意味不明なものが多い……。
メモ

 

私が通った自動車練習場のホームページ
自動車練習場 車の練習は練習場で

タイトルの「合格率5%」という数字のソース
普通免許の合格率(一発試験、自動車教習所) | 一発試験ロードマップ