水素発電とは何で、どのようなメリット・デメリットがあるのか

2020年10月、菅義偉首相が初の所信表明演説で「温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにする」との目標を掲げました。

太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーはもちろん、福島での原発事故によって議論の巻き起こった原子力発電の割合も今後増えていく見通しです。

風力発電

そんな今、脱炭素社会の実現へ向けてもう一つ注目を浴びているのが水素です。

水素自動車や、水素を使った燃料電池自動車といった言葉を聞いたことがある方も多いかもしれませんね。

多くの方は、水素のことをCO2(二酸化炭素)を排出しないクリーンエネルギーとして認識しているのではないでしょうか。

しかし太陽光や風力とは違って、水素は必ずしもクリーンエネルギーであるとは言えません。水素はそのままの形で地球上に存在しているわけではないので、他の再生可能エネルギーとは異なった仕組みで利用されているのです。

この記事では、水素発電とは何で、どのようなメリット・デメリットがあるのかご紹介します。

水素発電とは、水素を燃やして得たエネルギーで電気を起こすこと

水素発電の仕組みを簡単な図で表すとこのようになります。

水素発電の仕組み

水素が燃焼することで、タービンと呼ばれるプロペラのような物が高速で回転し、それによって電気が発生します。

何かを燃焼させてタービンを回転させるというのは、日本の電源の多くを占める火力発電(石炭や天然ガスなど)とほぼ同様の仕組みです。そのため、天然ガスなどと一緒に燃やして発電することもあります。

水素はなぜクリーンエネルギーと呼ばれるのか

CO2などの温室効果ガスが増加し、地球温暖化が進行しているということは、多くの方がご存じだと思います。(これには反論もありますが、今回は触れません)

火力発電では、石油や石炭、天然ガス(メタンが主成分)を燃焼することによって、毎日大量のCO2が発生しています。

これによって、平均気温や海面の上昇など、近年地球の環境が大きく変わってきてしまっていると考えられているわけです。

大量のCO2を発生する火力発電

しかし水素発電では、燃焼することによって発生するのは水(H2O)のみです。よって、環境にやさしいクリーンエネルギーと呼ばれています。

※気体となった水(H2O)は、実は温室効果ガスの一つです。大気が持つ温室効果の約5割を占めており、CO2が約2割であるのに対してかなり大きな影響を持っています。

水素発電のメリット

水素を使った発電そのものはCO2を排出しない

水素を燃焼させても発生するのは水(H2O)のみです。

水(H2O)

現在日本の電力の多くを支えている火力発電を水素発電に替えることができれば、地球温暖化をもたらす温室効果ガスであるCO2の排出量を抑えることができると考えられています。

よって水素はクリーンなエネルギーとして称賛されているわけです。

再生可能エネルギーで水を電気分解して水素を得れば、温室効果ガス排出量を減らせる

最初にも書いた通り、水素はそのままの形で地球上に存在しているわけではありません。どうにかして別の物質から取り出す必要があるわけです。

実は現在、水素を取り出す主流の製法では化石燃料が用いられています。化石燃料を使うことでCO2が発生してしまっているので、これではクリーンと呼べません。

化石燃料

そこで期待されているのが、水を電気分解することによって水素を発生させる方法です。

水を分解して水素を取り出すには電気が必要になりますが、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーを用いて作った電気でこれをまかなえば、排出する温室効果ガスを大幅に減らすことができるのではないかと期待されています。

 

水素を溜めておくことで、安定して電力を供給できる

先ほどの説明を聞いて疑問に思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。

「太陽光発電や風力発電で電気を作ったのに、それをわざわざ水素を作るために使って、できた水素をまた発電に利用するのはムダではないか」という疑問はごもっともです。

発電では多くのエネルギーを熱などで失ってしまうため、電気を使って発電用の水素を作ることはエネルギーの無駄です。

 

しかし、一つだけメリットがあります。

それは、電力の供給が不安定な自然エネルギーとは違い、溜めておいた水素は好きな時に使えるということです。

水素を溜めておく

極端な話、ずっと雨が降っていたり、風がまったく吹かなかったりといった状況が長く続いてしまうと、再生可能エネルギーによる発電は成り立たなくなってしまいます。

そんな不安定な自然のエネルギーを活用するためには、うまく太陽の光が注いだり風が吹いたりした時に発電し、そのエネルギーをなんとかして溜めておく必要があります。

その方法の一つが、水素という形で溜めておくことです。

溜めておいた水素を電力需要に合わせて発電に使用すれば、不安定な再生可能エネルギーを補えるのではないかと考えられているのです。

水素発電のデメリット

水素を低コストで作るためには化石燃料を使う必要がある

水素は様々な製法でつくることができますが、大量に低コストで製造するとなると、現在は化石燃料に頼るほかありません

化石燃料を使わずに水素を製造すると大きなコストがかかってしまうので、実用的ではないのが悩ましいところです。

「水素発電はCO2がほとんど排出されないのでクリーンです」などと、まことしやかに言われていますが、現状はクリーンな運用であるとは言えません

石油コンビナート

水素を貯蔵・運搬するのにコストがかかる

水素を作るのにコストがかかるのはもちろんですが、できた水素を溜めておいたり、運搬したりするのにも大きなコストがかかります。

まず、水素は気体のままだと体積が大きすぎて大量に貯蔵・運搬ができません。水素をマイナス253℃以下の液体にしたり、大気の数百倍の圧力で圧縮したりする必要があります。

水素を運搬する際にはタンクローリーなどの大きな車が用いられますが、もちろん運ぶ際にも冷却や圧縮が必要となるため、非常に大きな手間とコストがかかります。

タンクローリー
これらの作業には電気やガソリンなどが必要ですから、つまるところ化石燃料を使ってしまっているのも問題です。

爆発による事故のリスクがある

もう一つ問題なのが、水素には爆発というリスクがあることです。

爆発

生成・貯蔵・運搬・使用のいずれかの段階で制御を誤ってしまうと、重大な爆発火災事故を引き起こす可能性があります。

これは天然ガスや原子力などの他のエネルギー源にも言えることです。

まとめ

「水素はCO2を排出しないクリーンエネルギー」と聞くと耳ざわりは良いですが、その実現には大きな壁が立ちはだかっています。

中でも、水素を作るために化石燃料を使用してしまっているというのが大きな問題と言えるでしょう。

化石燃料に依存しすぎない社会をどう作っていくかに注目ですね。