進化という言葉を知らない方はいないと思います。
例のゲームを含め、私たちが普段なにげなく使う「進化」という言葉ですが、生物学での「進化」は少し意味が違います。
では、生物の「進化」とはいったい何で、どのような仕組みで起こっているのでしょうか?
わかりやすく解説します!
進化とは、生物の設計図が、多くの世代をかけて変化すること
私たち人間を含め、すべての生物は細胞という小さな部屋のようなものでできています。
人間は数十兆個の細胞が集まってできている、という話を聞いたことがあるかもしれませんね。
1つの細胞だけで生きている生物もいますよ。
一つ一つの細胞の中には、鎖のような形をした設計図があります。
設計図には、私たちの体をどのようにつくるか?という情報が詰め込まれているんです。
設計図は親から子へとコピーが受け渡されます。
このときに完璧なコピーが行われず、子に渡す設計図が親とは違ったものになることもあります。
これが突然変異です。ご存じの方も多いかもしれませんね。
コピーのミスによって「少し変わった」設計図を持った子は、うまくいけばさらに子ができて、その孫ができて…というふうにして、「少し変わった」設計図をもった子孫が増えていきます。
このようにして、生物の設計図が多くの世代をかけて変化することを進化と言います。
「成長」や「変態」は進化ではない
先ほども言ったとおり、生物学での「進化」が起こるためには、体の設計図が変化する必要があります。
ようするに、子に受け継がれることがない性質の変化は「進化」ではありません。
例えば「身長が伸びた!」「筋トレをして筋肉がムキムキになった!」というのは、生物学的な進化ではありません。
筋トレをしてムキムキになるのは筋トレをした人だけで、その子供までムキムキになることはありませんよね。
どれだけ頑張って身長を伸ばしたりマッチョになったりしても、子供に受け継がれる設計図は変化しません。
運動したり食べ物を摂取したりすることで、設計図の通りに体が大きくなっているだけなのです。
私たちが日常で「俺の筋肉は進化したぞ」などというのは間違いではありませんが、そのような「成長」を生物学では「進化」とは呼びません。
別の例として、「イモムシがさなぎになってチョウへと羽化した!」というのも、生物学的な進化ではありません。
これは「変態」と呼ばれます。
変態も成長と同じで、あくまでも設計図の通りに姿を変えているだけです。
設計図そのものが変わっているわけではありません。
そのため、生物学において「変態」は「進化」ではないのです。
いわゆる「退化」も進化に含まれる
進歩したものがもとの状態にもどることを「退化」と言いますよね。
ふだんの生活の中で、「進化」の逆の意味として「退化」という言葉を使う方も多いと思います。
実は、生物学での「退化」は、「進化」に含まれます。
例えば、サルからヒトに進化する過程でしっぽがなくなった、というのも進化に含まれるのです。
どうして?と思う方もいるかもしれませんが、これから説明する進化の起こる仕組みを理解すれば、なんとなくうなずけるかもしれません。
進化の起こる仕組み
進化が起こる仕組みについて、突然変異からスタートして詳しく見ていきましょう。
親から子へと体をつくる設計図のコピーを渡す時に、ごくまれにコピーミスが発生します。これが突然変異です。
親とは違った体の特徴を持つ子が生まれてきます。
コピーミスによってできた新しい特徴は、生きて子孫を残すうえで以下の3パターンに分けられます。
- 不利になる
- 有利になる
- ほとんど影響がない
・不利になる場合
設計図が変わったことで不利になる場合、うまく子孫を残せません。
その「少し変わった」設計図は、この世に残ることはないでしょう。
この場合は進化が起きることはありません。
・有利になる場合
めったにないことですが、設計図が変わったことで有利になる場合、これまでよりもうまく子孫を残せるようになります。
それによって「少し変わった」設計図は子から孫へ…と何代も受け継がれ、その「少し変わった」設計図を持つ個体は増えていきます。
これによって進化が起こるわけです。
先ほどの「サルからヒトに進化する過程でしっぽがなくなった」お話ですが、地上の生活に不要なしっぽが無くなることで、無駄なエネルギーを使わずにすみます。これによって子孫を残すのに有利になりますよね。退化であっても立派な進化と言えるのです。
・ほとんど影響がない場合
設計図が変わったとしても、生存して子孫を残すのに特に影響がないことが結構あります。
そういった場合は運しだいで「少し変わった」設計図を持つ個体が増えることもありますし、逆にいなくなってしまう可能性もあります。
その「少し変わった」設計図がうまく広がっていけば、進化が起こることもあります。
以上が進化の起こる仕組みです。
具体的な進化の例
これだけだとイメージがわきにくいので、具体的な進化の例を見ていきましょう。
むかしむかし、あるところに植物の葉っぱが大好きな動物Aの集団がいました。
ある日のことです。もともと違う場所に暮らしていた動物Bの集団が、食べ物を求めて近くに移動してきました。動物Bも葉っぱが大好きです。
もともと動物Aの暮らしていたところでは大混乱が起こりました。
動物Aたちの大好きな葉っぱが、食欲旺盛な動物Bたちに食べつくされてほとんどなくなってしまったのです。
動物Aたちは動物Bたちよりも体が弱く戦うこともできません。食べるものが無くなってしまい、ばたばたと倒れていってしまいました。
おしまい。
……ではありません。
動物Aたちの中に、突然変異によって偶然にも首が長いものたちがおりました。
仲間の動物Aたちが栄養不足でばったばったと倒れていく中、動物Bが食べることができない高いところの葉っぱを食べることができた彼らは、なんとか子孫を残すことができました。
めでたしめでたし。
これはキリンが進化した説の一つです。結局キリンが進化した本当の理由はわかっていないので、あくまでも想像にすぎません。
このお話の大事なポイントは、
「高いところにある葉っぱを食べるために首が長くなる進化をした」のではなく、
「高いところにある葉っぱを食べられるものが子孫を残せた結果、首が長くなる進化が起こった」ことです。
最近起こった進化の例だと、19世紀ヨーロッパの「ガ」が挙げられます。
オオシモフリエダシャクというガは、ほとんどが白っぽい色をしていました。
白に近い色の木やコケの上ではうまく隠れることができて、ガを食べる鳥に見つかりにくいようになっていました。
しかし、ヨーロッパにある工業都市の発展によって石炭が大量に燃やされ、樹木の皮が黒く汚れていきます。
すると今度は黒っぽいオオシモフリエダシャクが姿を隠しやすくなります。
その結果、オオシモフリエダシャクのほとんどは黒っぽい色をしたものになりました。
…というお話です。
このお話には様々な論争が起こっているので、必ずしもこのストーリーが真実であるとは限りません。
しかし進化を説明するわかりやすい例なので、教科書にも掲載されています。
どのようにして進化は発見されたのか
数千年もの間、「なぜいろいろな種類の生物がいるのか?」という論争には宗教が大きくからんでいました。
ヨーロッパだと、キリスト教の影響で「すべての種類の生き物は神によってつくられたのだ」という考え方が主流だったようです。
近代になって、その考え方に対する科学的な反論がなされます。
ラマルクが進化を提唱した
最初に進化という考え方が発表されたのは、1809年に生物学者ラマルクが出版した本だと言われています。
彼は「生物の種類は時間をかけて変わっていくものだ」「生きていく途中で必要になり身につけた性質が、子孫へと受け継がれていくのだ」と主張しました。
先ほど、筋トレをしてムキムキになっても子供まではムキムキにならないという話をしましたね。「生きている間に身に着けた性質は、子孫に受け継がれることはない」というのが現代の生物学では主流の考え方です。
よって今となっては、ラマルクは間違ったことを主張していたとして悪いイメージがついてしまっています。
しかし、彼が進化を主張するまでは、そもそも生物が進化するなどという考えは世に広まっていませんでした。
「〇〇神が我々生物をつくったのだ!」という宗教の論争になっていたところに「生物は進化する!」というまったく新たな考え方を提案したのだから、すごいものです。
ダーウィンが自然選択説を主張した
その後の1859年、かの有名なダーウィンが以下のような主張をします。
「厳しい自然環境によって、生物に起こる突然変異が選別される」
これは自然選択説または自然淘汰説と呼ばれ、ランダムに起こる突然変異が環境に応じて生き残るか滅びるか決まるという考えは、現在多くの人に受け入れられています。
以上、生物の進化についてでした。
生物の進化に関するお話には論争が続いていて、今後新たな考え方が出てきたり、今まで正しいと思われてきたことが実は間違いだったとわかる可能性もあります。
気になる方は、現在起こっている議論についても調べてみてくださいね。